腕が上がらないのは「肩甲骨が下がりすぎ」だから?『下方回旋』の原因と自分でできる改善法

「最近、肩がスムーズに挙がらなくなった…」 「腕を横から上げようとすると、途中でズシッと重さを感じる」

もしあなたがこのような症状を感じているなら、それは単なる肩こりではなく、肩甲骨が「動きの悪い位置」で固まっているせいかもしれません。

その正体こそが、今回解説する「肩甲骨の下方回旋(かほうかいせん)」です。

本来、腕を高く上げるとき、肩甲骨は一緒に上へ回る(上方回旋)必要があります。しかし、これが下方向へロックされてしまうと、骨同士がぶつかり、痛みや可動域制限を引き起こしてしまうのです。

今回は、この「下方回旋」とは一体何なのか、なぜ起こるのか、そしてどうすれば改善できるのかを、専門用語を噛み砕いてわかりやすく解説します。

そもそも肩甲骨の“下方回旋”とは?

簡単に言うと、肩甲骨が「背骨側に寄り、かつ下へ垂れ下がって固定された状態」のことです。

通常、肩甲骨は「ハの字」のように少し外側に開いているのが理想的です。 しかし、下方回旋の状態になると、肩甲骨の下の角(下角)が、内側(背骨側)に入り込むように傾いてしまいます。

  • 📍 正常な状態 肩甲骨の内側が、背骨に対して少し「上向き(上方回旋)」の角度(3〜5度)で安定している。

  • 📍 下方回旋の状態 角度がなくなり、むしろ「下向き」に傾いている。肩甲骨全体が背中の中央に沈み込んでいるイメージ。

この状態で腕を上げようとしても、肩甲骨がブレーキをかけてしまい、「これ以上腕が上がらない!」というロックがかかってしまうのです。

なぜ「下方回旋」になってしまうの? 4つの原因

主な原因は、肩甲骨を支える筋肉の「バランス崩れ」です。 「引っ張る力が強すぎる筋肉」と「サボっている筋肉」があると考えてください。

① 大菱形筋(だいりょうけいきん)が硬すぎる

大菱形筋は、背骨と肩甲骨をつなぐ筋肉です。ここがガチガチに固まって短くなると、肩甲骨を無理やり内側・下方向へ引っ張り続けてしまいます。

② 前鋸筋(ぜんきょきん)がサボっている

脇の下にある「前鋸筋」は、肩甲骨を外へ・上へと押し上げる役割があります。ここが弱くなると、大菱形筋の「引っ張る力」に負けてしまい、肩甲骨が下へ落ちてしまいます。

③ 巻き肩・猫背姿勢

デスクワークなどで背中が丸まると、肩甲骨はお辞儀をするように前へ傾き、その位置で固まります。この姿勢では、腕を上げるためのレールから脱線しているため、スムーズに動かせません。

④ 運動不足による悪循環

背中を動かさない生活をしていると、使われない前鋸筋はますます弱り、姿勢を保とうとする背中の筋肉(菱形筋など)ばかりが緊張して硬くなる…という悪循環に陥ります。

放っておくとどうなる?(症状例)

下方回旋が定着してしまうと、以下のような不調につながります。

  • 「90度(水平)までは上がるが、そこから上がらない」(これが典型的です!)

  • 腕を上げると、肩の奥でゴリゴリと音がしたり、引っかかりを感じる

  • 肩甲骨の内側が、背骨に食い込むような苦しさがある

  • 上腕(力こぶのあたり)の前側に痛みが出る

  • 将来的に「四十肩・五十肩」のリスクが高まる

鏡でチェック!あなたの肩甲骨は大丈夫?

鏡の前でリラックスして立ち、ご自身の肩や背中を見てみましょう。

  1. 肩甲骨の内側のラインが、垂直(またはハの字の逆)になっている

  2. 肩甲骨の下の角が、背骨側に入り込んでいるように見える

  3. 腕を横から上げたとき、肩が一緒にすくんでしまう

  4. バンザイをすると、肩が前に出てしまう

これらに当てはまる場合、「下方回旋」の疑いがあります。

今日からできる!改善ストレッチ&エクササイズ

ポイントは「硬い筋肉(菱形筋)を緩め」て、「弱い筋肉(前鋸筋)を働かせる」こと。この2つをセットで行うのが改善への近道です。

① 【緩める】大菱形筋の背中丸めストレッチ

引っ張りすぎている背中の筋肉を伸ばします。

  1. 両手を胸の前で組み、大きなボールを抱えるように肘を外へ張ります。

  2. 息を吐きながら背中を丸め、組んだ手を遠くへ突き出します。

  3. 肩甲骨と肩甲骨の間が広がるのを意識して20秒キープ。(3セット)

② 【働かせる】前鋸筋の壁プッシュ

サボっている脇の下の筋肉を目覚めさせます。

  1. 壁に向かって立ち、両手を肩の高さでつきます。

  2. 肘を伸ばしたまま、手で壁をグッと押し、背中を後ろへ膨らませます(肩甲骨を外へ広げるイメージ)。

  3. その状態で深呼吸を繰り返します。

    • → 肩甲骨が正しい位置(上方回旋)へ動きやすくなります。

③ 【動きを出す】肩甲骨回し

固まった錆びつきを取るように動かします。

  • 肩先に手を置き、肘で大きな円を描くように「前回し・後ろ回し」を行います。特に「下から上」へ大きく動かすことを意識しましょう。

【まとめ】

肩が上がりにくい原因は、腕そのものではなく、土台である「肩甲骨の位置(下方回旋)」にあることが非常に多いです。

「背中を緩めて、脇の下を使う」。 この意識を持つだけで、驚くほど腕が軽く上がるようになることも珍しくありません。

まずはご紹介したストレッチを、お仕事の合間やお風呂上がりに試してみてください。「自分ではうまく動かせない」「痛みが強い」という場合は、無理をせず一度専門家にご相談いただくことをおすすめします。